特別研究員制度の犠牲者に聞く
携帯の匿名院生への独占インタビュー

 この総力特集の中で、日本学術振興会が実施している特別研究員制度の問題点を取り上げた。しかし、その後の取材や調査を進める中で、この制度のもつ問題が一層明らかになってきた。申請段階での不正、いい加減な審査・採用、採用後のばらまき行政、科学研究費の不正使用の横行など、その実情を知るにつれ、このような制度が存在していること、今後も継続されるであろうこと自体に疑問を持たざるを得なくなってきた。さらに、教員さえも科学研究費の不正を行っており、それらの管理も十分行えていない日本学術振興会は独立行政法人として早急に業務を改善し、さもなければ解散すべきであることを我々は結論するに至ったのであった。
 これからしばらく、この問題について取り上げることになる。今回は京都大学の学生たちのためのサイトkyoto-u.com(http://www.kyoto-u.com/)に度々書き込みを行っている携帯の匿名院生さんへの独占インタビューを紹介したい。(聞き手:梶本武信・大日本皇國党副総裁)

 梶本 我々、大日本皇國党は大学院の問題をいろいろと調べていて、日本学術振興会のやっている特別研究員制度に疑問をもっています。そんな時に、掲示板を見ていたら、携帯の匿名院生さんの書き込みを見ました。学術振興会の特別研究員に採用され、そのためにいろいろと精神的苦痛を感じておられると書いておられましたが、今日は是非、そのあたりを詳しく教えていただきたい。制度を見直し、よりよくしていくためにも。
 携帯の匿名院生 制度の見直しというよりも、廃止でいいと思います。
 梶本 見直しと言ったのは、税金の使い方という意味で、です。

 進学と申請の経緯

 梶本 まずはご自身のことを教えてほしいのですが、京都大学の院生ですか?
 携帯の匿名院生 個人が特定されることのないようにというお約束でしたが…
 梶本 はい、それは当然配慮します。ですから、お名前はもちろんのこと、ご所属もおっしゃっていただく必要はないです。ただ、大学院生であることと日本学術振興会の特別研究員であることを確認しておきたいのです。
 携帯の匿名院生 はい、大学院に属していますし、日本学術振興会の特別研究員に採用中です。
 梶本 ありがとうございます。どうして大学院に進学をされたのですか?
 携帯の匿名院生 学部時代は別の大学にいましたが、そこでは真面目に勉強をしていました。自分がゼミでお世話になっていた先生から、大学院への進学を勧められたのです。先生から進学を勧められていましたし、勉強することは嫌いではないので、私はあっさり進学を決めました。就職活動はしていません。
 梶本 なぜこの大学に?
 携帯の匿名院生 その先生の薦めです。進学先の指導教官はその先生の先輩に当たる方です。自分よりこの先生の方が適切な指導ができるだろうというようなことをおっしゃっていましたが、学校の知名度もあります。未だに学歴で評価される状態は残っていて、どこの大学院にいたかで左右されます。知名度のある大学院、レベルの高い大学院に進学することがまだまだ重要だということで、私もそうしました。
 梶本 では、特別研究員に申請されたのはなぜですか?
 携帯の匿名院生 大学院にいる限りは申請しなさいといわれたからです。私が申請したいかどうかじゃなく、研究室の意志で半強制的に申請させられました。もちろん、形式上は自分が自主的に申請したことになっていますが…
 梶本 申請書はご自身で書かれたんですか?
 携帯の匿名院生 うーん、最初は自分で書きました。でも、提出までの間にかなり修正が入りました。
 梶本 誰かに勝手に書かれるということはありませんでしたか?
 携帯の匿名院生 それはないです。そういうことをしている大学院・研究室はあるようですし、私の知り合いでも教授が代筆した申請書を出した(教授が書いてそれを出した)ケースはありますが、私のところでは修正はされても、基本的には自分が書いた文章でした。
 梶本 ということは、その中に書いてあることは、あなたが研究されたい内容だったということですか?
 携帯の匿名院生 微妙です。そもそも今のテーマはあまり乗り気じゃなかった。その研究をしてもたいしたことはないと思っているからです。教官が一人で乗り気なんですが、研究してどういう意味があるのか、まったく分かりませんし、やっていておもしろくない。学会で報告しても、受けは良くないです。だから、早いこと辞めたいなと思っています。
 梶本 でも、採用されてしまった?
 携帯の匿名院生 はい、その理由もよく分かりませんが、どういうわけか受かってしまったのです。受かってしまうと、そのテーマで研究をしないといけません。
 梶本 そうですよね。あの、研究専念義務という奴ですね。
 携帯の匿名院生 そうです。私は学部の頃からボランティア活動をしていましたし、アルバイトもしていました。研究専念義務によってアルバイトを辞めさせられました。生き甲斐を奪われた感じがしました。
 梶本 採用された段階で辞退することもできたわけですよね?
 携帯の匿名院生 制度上はそうなっています。でも、そんなことは研究室では許されません。だから辞退しなかったことをもって私の落ち度と言われることもあるのですが、それは違います。研究室での力関係などが分かっていません。
 梶本 申請されてから採用され、そして今に至るまで、気持ちの変化はありましたか?
 携帯の匿名院生 ありますね。申請する頃はまだある程度は研究する意欲がありましたが、徐々にそれは低下していきました。そんな時に採用通知が届き、教官たちはよかったねと言ってくれましたが、自分の中ではすごく嫌な気分でした。書類は多いし、いろいろ煩わしい。しかもそれは嫌なことをさせられるための手続なわけですからね。

 採用されたけれど…

 梶本 採用されると科学研究費補助金の申請があるんですよね?
 携帯の匿名院生 そうです。その時点では研究する気はもう失せていました。でも、研究することにして、書類は出しました。出さなきゃいけなかったからです。
 梶本 結果はどうでしたか?
 携帯の匿名院生 補助金がもらえることになり、研究室に配分されました。研究に関係するものはこれを充てることになります。
 梶本 でも、研究する気はないんですよね?
 携帯の匿名院生 そうです。だから、どう使うか悩みました。でも、年度内に使い切ってくれと事務から言われ、別にどうしても必要なわけじゃないんですけど、いろいろと買うことにしました。
 梶本 無駄遣いってことですか?
 携帯の匿名院生 そういうことになりますね。図書館で借りてもいい本を買うわけですから。
 梶本 それって、税金なんですよね?
 携帯の匿名院生 そうですよ。税金を元にした補助金ですから、受け取っていることに罪悪感があります。でも、研究員を辞退できないのと同じ理由で、これも辞退できないのです。
 梶本 補助金は適正に使用されていますか?
 携帯の匿名院生 はい、無駄遣いはしていますが、不正使用はしていません。研究とまったく関係のない物を買ったり、空出張をしたり、実態のないアルバイト雇用をしたりしている人もいますが、私はしたことがありませんし、するつもりもありません。

 恐ろしい制度

 梶本 研究員を辞退されようとしたことはありますか?
 携帯の匿名院生 あります。でも、辞退しようとすると、指導教官の同意というか承認が必要になりますが、教官が同意してくれるわけもありません。せっかくなんだからと辞退は慰留され、辞退することすらできない状況が続いています。
 梶本 掲示板を読ませていただきましたが、体調が思わしくないと書いておられましたね? 休学とかはされないんですか?
 携帯の匿名院生 したいですができません。特別研究員は出産と育児の場合に限って休職することが許されます。在学採用の場合は、大学院に学籍があることが条件になりますから、学籍を失った時点で研究員でなくなります。私はそれでよいのですが、研究員を辞めることを慰留されているということは、つまり休学もさせてもらえないということです。休学するにも教官の許可は必要です。私の場合、怪我や病気というわけではなく、あくまで精神的な問題ですから、周りは理解してくれません。
 梶本 病院には行かれましたか?
 携帯の匿名院生 行きました。精神科のクリニックで診察をしてもらいました。その結果、鬱ではないけれども、心身症だと診断されました。
 梶本 研究については何か言われましたか?
 携帯の匿名院生 しばらく研究を休んだ方がいいと言われました。他にできること、たとえばアルバイトなどがあるなら、そっちをやった方が私のためだと。
 梶本 でも、それはできないんですよね?
 携帯の匿名院生 はい、アルバイトは禁止されていますからね。
 梶本 休むこともできず、辞めることもできず、他のこともできない、ということですか?
 携帯の匿名院生 そういうことです。もう、どうにもならずに、行き詰まっています。

 今後のこと

 梶本 これから、どうしていくつもりですか?
 携帯の匿名院生 とりあえず、特別研究員を辞退できるように、まずは仕事を見つけるつもりです。そして、就職を理由にして研究員を辞退し、即刻大学院を退学します。これで研究しなくて良くなります。
 梶本 あなたにとって今、研究とはどういうものですか?
 携帯の匿名院生 苦痛以外の何ものでもない、という感じです。
 梶本 普段は何をされていますか?
 携帯の匿名院生 何も… 研究していることになっている時間はボーッとしています。だから、自分が今ここに生きていること自体が虚しくなってきます。
 梶本 どうしてそんなに研究が嫌なのですか?
 携帯の匿名院生 すでにお話ししましたが、そんなに興味がないからです。それと、研究すること自体に対して嫌気がさしてきました。研究室にいる人たちは、別に自分がいる研究室だけの固有の問題ではないのですが、世のため人のためとか、滅私奉公などの精神は微塵もなく、自分のため、自分の知的好奇心を満足させるためだけに日々生きているような連中が支配しています。こういう人たちは、税金から研究費をいただいているという感謝の気持ちなんて全くなくて、自分たちが頭がいいからお金をもらって当たり前だとふんぞりかえっています。そういうのを見ていて、すごく不愉快でした。そして自分もその中にいて、その一員としてみられているんだと思うと、吐き気がするほど苦しいのです。
 梶本 特別研究員制度についてどう思われますか?
 携帯の匿名院生 いらない制度です。
 梶本 どうしてですか?
 携帯の匿名院生 若手研究者の養成といっていますが、若手研究者に分不相応な金銭を与え、堕落させるだけです。本当にやる気のある人たちは、自分で稼ぐ術をもっています。そして自分で努力して稼いだからこそ、そのお金を有効に使おうと必死になります。私もバイトをしていた頃はそうでした。そして、それでもなお研究をしたいという人は、節約しながら必要なものを購入するでしょう。もちろんそれは大切に使いますし、無駄なものなんて買いません。
 梶本 科学研究費はどうですか?
 携帯の匿名院生 同じく、いらないでしょう。
 梶本 制度が改善されるとしたら、何を期待されますか?
 携帯の匿名院生 制度そのものがなくなることです。でも、なくならないなら、採用されたときに辞退しやすくすること、研究意欲のないものを任期途中でもクビにすることです。そして、病気になったり怪我をしたりしたときには休めるようにすることです。
 梶本 実施主体の日本学術振興会についてはどう思いますか?
 携帯の匿名院生 無駄な独立行政法人ですね。学術を振興してなんていませんよ。やっていることは嘘やまやかしです。
 梶本 どういうことですか?
 携帯の匿名院生 特別研究員は学術振興会と雇用関係にはなく、支払われているのは給与ではなくて研究奨励費ということになっています。実質は給与を支払っているのに、雇用主としての責任を果たさなくていいように、給与でないと言っている。だからといって、自由に勉強するための奨学金ではない。決められたことしかできないわけです。そして、もっと曖昧なのが研究遂行経費です。研究奨励費のうち3割を研究遂行経費として計上できます。研究をする上で必要なものはこれで買うことになっていますが、先に述べた科学研究費で、すでに賄われているのに、研究遂行経費がまた別に存在するのです。しかも領収書の添付すら必要のない、自己申告です。税金対策のようですが、お金をもらったら納税するという国民の義務をちゃんと教えることも教育じゃないでしょうか。特別研究員制度をさっさとやめてしまって、研究奨励費や科学研究費として支給していた分をたとえば今話題の後期高齢者医療に回すとか、貧困対策に回すとかした方が、よっぽど社会の役に立つと思います。それをやってこそ、国の責任が果たされるのではないでしょうか。
 梶本 今日はいろいろとありがとうございました。

 この特集ですでに取り上げたテーマも含まれるが、やはりこの制度の被害者、犠牲者に直接声を聞くことは意味があると思ってインタビューを実施した。辞めたくても辞められない、休みたくても休めないというのは、今日の精神科医学の知見をまったく無視したものである。皇太子妃でさえ、(国民の批判はあろうとも)休暇が認められているのだ。大学教員であれば、当然休職は認められる。しかし、特別研究員には認められてない。不慮の事故にあっても研究を強要されるか辞退を迫られるのでは、たとえば優秀で真面目な研究員であっても苦痛であろう。そして、やる気の低下した人はさっさと排除すべきである。辞表すら出せない、出させてくれないのは指導教授の責任だとしても、慰留する気持ちも理解できる。やはりこれは、制度の問題である。
 今回は研究費は適正に使用されているとのことでこの問題には触れられなかったが、研究費の不正使用は後を絶たない。そしてそれらは十分にチェックできていない。次回はこの問題を考えてみたい。


大学院問題資料室 | sukenavi.com